キノの旅シリーズ第一回「人の痛みが分かる国」“短編は途中から始まる”

さて、今回は以前告知していた「キノの旅」の一話ごとの解析を行っていきます!
キノの旅の総括的な解析はこちらをご覧いただくとして、今回はキノの旅第一巻の第一話「人の痛みが分かる国」を取り上げますね。

まずはあらすじをご覧ください。


※以下ネタバレが含まれます、ご注意ください。


■おおまかなあらすじ
旅人キノと、喋るモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)エルメスは、ある国に入国した。
そこには誰もいなかった。入国もレストランの調理や給仕も、すべて自動機械が行っている。
不思議に思ったキノたちは、翌日“居住エリア”へと向かう。

ほとんどが森の居住エリアには、家が点在しているもののやはり人の姿はない。
エルメスを走らせているとあっという間に居住エリアを抜け、ビルが立ち並ぶ中枢エリアへと出てしまった。
キノはビルの展望台から狙撃用スコープを使って森の中の家を覗き見る。
すると、やはり人が生活しているようだった。

翌朝、キノが出国しようと居住エリアを抜けるためにエルメスを走らせていると、ようやく一人の人を見かけることができた。
キノが挨拶をすると、その男は酷く驚く。そしてこう言った。
「君達、私の思っていることがわからないのか?」

その後、キノはお茶を飲みながら、この国になにが起こったのかを聞いた。男の話はこうだった。
“人の痛みを理解する”ために、お互いの思っていることがテレパシーのようにわかる薬が開発された。
当初は目論見通り、相手の痛みや心地良さを理解することで、コミュニケーションは円滑になった。
しかし、その薬は普段隠している悪い感情も伝えてしまう。
それが原因で国民は人と会うことを恐れ、薬の効果が及ばない一定距離を開けて暮らすことになったのだという。

男は久しぶりに心を読まずに済む相手に出会えた嬉しさから、「ここで一緒に暮らさないか」とキノに提案するが、キノは旅を続けると告げて国を去っていった。


■構造解析
うーん、最初に読んだのはもう10年以上前なんですが、今読んでも面白いですね。
キノの旅は時雨沢恵一さんのデビュー作なのですが、この話からはそうとは思えない物書きとしてのバランスの良さを感じます。
いくつかのポイントに分けて解析していきましょう。

1.短編は途中から始まる

自分が小説を書き始めた頃、短編を書く時によくやってしまいがちだったのが、物語の最初の最初から始めてしまうことです。
短編というのは、その名の通り短いお話です。
にもかかわらず最初からお話を始めてしまうと、大部分が冒頭の説明に取られてしまって、内容がないまま終わるか短編ではなくなってしまうんですね。
時雨沢さんはその辺がとても良くわかっていて、いきなりなんの説明もなくキノが旅をしているところから始まるのです。
それどころか、さも当然のごとく喋るバイクが出てくるんです。絶対印象に残りますよね。
短編の瞬発力を感じさせる模範的な第一話でした。

2.寓話的な題材

そして、キノの旅はインパクトだけでは終わりません。
その題材は極めて寓話的(教訓的なお話)であることが多いです。
今回も、誰でも一度は思う「人の心が読めたら」という願望を叶えた上で、それが持つ良い部分と悪い部分を現実的に提示しています。
キノの旅の冒頭のページに書かれた「世界は美しくなんかない。そしてそれ故に美しい」という一文を如実に体現していますよね。
以前の記事でも触れましたが、この毒にも薬にもなる部分が根強いファンを獲得できた要因の一つなのでしょう。


■まとめ
というわけで、一巻第一話「人の痛みが分かる国」の解析でした!
こういうインパクトのある話も多いのですが、キノの旅一巻にはしっかり“キノの始まり”に触れるお話も含まれており、一巻という役割をこれでもかと果たした一冊になっています。
順を追って解析していきますので、お楽しみに!

それでは今日はこの辺で! サラダバー!

小説「キノの旅」に学ぶ、長期シリーズの書き方

今回紹介するのは、自分が小説を読み始めるきっかけとなった作品「キノの旅 -the Beautiful World-」です。
時雨沢恵一さんの作品で、2000年に第一巻が刊行されて以来累計700万部以上を売り上げています。
非常に読みやすい文体でキャラクターも魅力的なのですが、内容は寓話的であったり毒もあったりと、大人から子供まで楽しめる作品になっていると思います。

この作品は短編連作形式なので全体を通した曲線ではないのですが、一巻ごとに見るならこうでしょう。
キノの旅曲線 
多分ほとんどの巻がこういう形になっています。
ミステリー曲線+WEB小説曲線とでも言いましょうか。
では、簡単なあらすじをご覧ください。


※以下ネタバレが含まれます、ご注意ください。


■おおまかなあらすじ
ボーイッシュな女の子“キノ”と、喋るモトラド(二輪車。空を飛ばないものだけを指す)“エルメス”が、様々な国を巡りながら旅をする話。

■構造解析
な、なんて簡単なあらすじなんだ(歓喜)。
このブログのなにが大変かって、作品をなるべく簡潔にあらすじとしてまとめるところなんですよね……。
という泣き言はさて置き、キノの旅がどういう構造を取っているか説明します。

1.読み続けやすい土台設定

まず、「キャラクターが国を巡りながら旅をする」という土台の設定が素晴らしいですよね。
強制的にキャラクターの行動が決められているので、一巻を読んでしまえば二巻以降頭に入れなければいけない新しい情報の量をぐっと減らすことができ、読者はぺらぺらとページがめくれます。
文体も含めたこの読みやすさが、一巻から10年の時が流れても愛され続ける要因でしょう。

ただしこれ、書く方は相当大変だと思います。
土台が決まっているだけに、決してそれに甘えてはいけないからです。
「あれ、これ前もあったな」と思われないように、導入や国の設定にバリエーションをつけるのは骨が折れるでしょう。
それを10年も続けられている時雨沢さんは凄いですね……。

2.巻頭と巻末に分けられた話

キノの旅の「お約束」的な要素として、AパートとBパートに分けられた話が巻頭と巻末に載っています。
特徴的なのが、先にBパートを載せて結果を提示し、巻末のAパートで経緯を説明するというやつですね。
これが本を最後まで読むモチベーションアップに非常に効果的で、色々な国を楽しんだあと、最後に「ああー、なるほど」と納得できるのです。

3.あとがき

そして時雨沢さんと言えば絶対に外せないのが、「あとがき」の存在でしょう。
どうやらご本人があとがきに並々ならぬこだわりがあるらしく、巻頭にあとがきがあったり、表紙の裏にあとがきがあったりと、もうめちゃくちゃです。
ネタバレが一切ないので先に読んでも問題ないという親切設計。
自分も新刊を買う度に、まずあとがきがどうなっているか探していたものです……。

■まとめ
今回は「キノの旅」を総括した記事になっていますが、今後印象に残った話を一話ずつ解析してみようと思います。
実は新刊を追いかけなくなって久しいので、この機会に既刊を全部揃えて今どうなっているのか確かめたいところですね。

それでは各話の記事もお楽しみに! サラダバー!

小説「君の名は。」とシン・ゴジラの共通点

さて、本日紹介する作品は小説「君の名は。」です。
映画の興行収入が200億円を突破し、海外でも大好評とのことで、日本を代表するアニメ映画の一つになったのではないでしょうか。
ところがどっこい、自分は見に行けておりません()
決して「けっ、流行りになんか乗るもんか」的なアレではなく、単純に「アラサーのおっさんが一人で見に行くのは恥ずかしくないだろうか」というもっとしょうもない理由です。
しかし内容は気になったため、小説を読みましたのでこっちのレビューをさせていただきます!

盛り上がり曲線はこんな感じです。
君の名は曲線 
若干緩めのミステリー曲線ですね。これが大ヒットの決定的原因となったようです。
この手法、種類は違えど、実は“シン・ゴジラと同じ性質を持っているんですね。
ではあらすじを読みつつ、キャラクターの魅力や需要の捉え方、さらにはプロモーションの方法も含めて解析していきましょう。


※以下ネタバレが含まれます、ご注意ください。


■おおまかなあらすじ
糸守町に住む東京に憧れる女子高生“宮水三葉”と、東京に住む男子高校生“立花瀧”。
二人はなぜか、夢の中で心と体が入れ替わってしまう。
戸惑いながらも、二人は日記アプリを使ってコミュニケーションを取りながら、それぞれの生活を乗り切っていた。

しかしある時、突然入れ替わりが起こらなくなってしまう。

町の名前が思い出せない瀧は、記憶の中の風景を絵にして、それを頼りに三葉の住んでいる場所を探し始めた。
バイト先の先輩や友人も巻き込んで電車で出かけるが、見つからない。
諦めかけた一行がラーメン屋に入ると、絵を見た店主が「それ昔のイトモリやろ?」と言う。
それをきっかけに「糸守町」という地名を思い出す瀧だったが、そこで衝撃的な事実が告げられる。

糸守町は三年前に彗星の落下によって消滅してしまっていた。

市立図書館で記録を調べると、犠牲者名簿の中には三葉の名前が。
瀧は、三年前の三葉と時を超えて入れ替わっていたのだった。

瀧はもう一度三葉と入れ替わり、彗星が落下することを知らせるため、ある場所に向かう。

■構造解析
すいません、物語の全容を書いているとあらすじだけでとんでもない長さになりそうだったので、今回は若干割愛させていただきます!
是非映画か小説でお確かめください。
ただ、物語の構造を説明する分にはこれで充分です。

1.叙述トリックの妙
本作はミステリー小説の王道であり必殺技、“叙述トリック”が使われています。
中でも特に強いカタルシスを与えることができる「違う時代に生きる二人のキャラクターを同じ時代にいるかのように描く」というものです。
ミステリーを読みなれている人であればなんてことはないこの手法ですが、他にも多少ファンタジーな設定が混在しており、一般の人たちは若干難しく感じてしまいます。
これがヒットの原因でした。
「一度目ではよくわからなかったから、もう一回見に行った」という人が多数存在していたのです。
「シン・ゴジラ」も手法は違うものの「残った謎を確認するためにもう一度見た」という人を生む作り方をしていました。
映画にとって“リピーターがつく”というのは最高の結果ですから、どちらも成功したわけですね。
ただし、この手法はある意味賭けです。
あまりにもわかりづらくしてしまえば「よくわからなかった」で終わってしまいますし、かと言ってわかりやす過ぎれば「二回目はいいや」となってしまいます。
「君の名は。」も「シン・ゴジラ」もその辺のバランス感覚が素晴らしく、やはりプロは凄いなと思いました……。

ちょっと叙述トリックについても掘り下げます。
自分が上手いなと思ったのは、二人の時代がさほど離れていないという点です。
瀧も三葉もスマートフォンを使ってコミュニケーションをしており、東京と田舎の差もあって、“時代が違う”ということに気づき難くなっているんですね。
この叙述トリックを使う時は、大抵何十年か時代を離すことが多いです。
その方がネタバレした時の驚きが大きいからなんですが、一方で時代が違うということを気づかせないために、キャラクターの行動や描写を制限しなければいけなくなるのです。
それが逆に「時代が違うことを隠そうとしているな」と気づかせてしまったりすることも。
本作の場合、単純に瀧と三葉を会わせてハッピーエンドにするという結末ありきで構成された物語だからだとは思うのですが、上記のようにミステリー的にも良い効果があったりしました。

2.時代に寄り添った設定とキャラクター
とは言え、やはり需要もしっかりと意識した作りになっています。

・若い世代に最も好まれるキャラクターである高校生の男女
・異性を意識させる男女の入れ替わり
・彗星が鍵になるというドラマチックなシチュエーション
・日本特有の文化に根差した各種設定
・運命の人と再び出会うという恋愛要素

誰からも好かれるであろう、まさに映画界の新垣結衣的スペック。
加えて、映画に関しては新海誠監督作品の売りである素晴らしい映像美とRADWIMPSの10~20代が好む音楽。
ヒットしなかったら逆におかしいのです。

3.売れる要素盛り沢山だからこそのプロモーション
そして売れる要素がてんこ盛りだからこそ、プロモーションで出す情報を絞ることができるのも良かったのでしょう。
事前情報で核心部分を出さないのは当然なのですが、本作の場合「男子高校生と女子高校生が入れ替わる」ということ以外一切不明だったので、彗星落下や時間の隔たり等の隠された大きな要素に「こんな話だとは思わなかった」と驚いた人も多かったようです。
前前前世以外のRADWIMPSの音楽も効果的に使われていたようですね。
この点は映画「告白」のプロデューサーが関わっているのでしょう。
(映画「告白」も音楽の使い方が良く、とても好きなのでそのうち記事にします)

■まとめ
全体を通して、この映画に関わった方々の手腕に脱帽です。
「この世界の片隅に」も話題になっていますし、2016年は本当に映画界にとって大きな収穫があった年だったのではないでしょうか。
ツイッター等のSNSが普及したことで、本当に良いものが評価される時代になりつつあるようですね。
この勢いで映画業界が再び元気になってくれることを願います。

ただし実写化、てめーはダメだ。

それでは、さらだばー!

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プロフィール

志室幸太郎

Author:志室幸太郎
あの名作からなんてことないニュースまで、ストーリー性のあるものを構造解析していきます。
創作ライフのお役に立てれば幸いです。

シェアワールド企画“コロンシリーズ”を運営しています。
コロンシリーズ:ホームページ
ツイッター:@shimuro_1129s

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